かつて自らの過去を葬り消息を絶ったミュージシャンがいた。その名は岩本清顕。理由はわからない。わかっているのはミニマム極限のオリジナル曲とECDをも驚愕させたジョイ・ディヴィジョン「Love Will Tear Us Apart(愛が僕らを引き裂く)」の《超訳》カヴァーを残したことだ。
岩本はポスト東京ロッカーズ期のシーンに姿を現し、ポストパンク・バンド<美れい>としてあの『都市通信』に参加。美れい解散後、工藤冬里とガイズンドールを結成し工藤と連名で『Hard Rock Album』(1984)を発表。その後、消息を絶つ。
本作は岩本がコジマ録音で自主制作した唯一のソロ作『SOUGI』(1983)に、千紗子と純太による「Love Will Tear Us Apart」のリワーク、工藤冬里・礼子のNOISE『天皇』をどこか彷彿とさせる美れいの未発表曲をプラスしたものだ。美れい時代の曲「悲しい町で」を含めた岩本のオリジナル4曲は、リズムボックスが鳴り、ギターとベースで数個のコードが演奏され、切り詰めたような短い詩が放たれる。苛立つ感情を自己内面にぶつけるのは日本のパンク/ニューウェーブの特徴だが、岩本のふてぶてしいヴォーカルはいっそう苛つきを増幅させるようで、ジョイ・ディヴィジョンの《超訳》に喪失のニヒルなクライマックスが訪れる。
『SOUGI』とは「葬儀」だったのか。角谷美知夫なら一体なんと応えただろう。80s自主制作盤のアンタッチャブルが今なおわたし達を揺さぶり続け、<愛されたい>者どもに噛み付く!
=作品仕様=
+ CD用マスタリング(倉谷拓人)
+ 12頁ブックレット封入、通常ジュエルケース、帯付
+ JKT印刷に特注インク使用
+ 解説(江村幸紀)、歌詞(訳詞)掲載
+ 日本語・英語表記
TRACKS:
=『SOUGI』(1983年)=
1. 生理
2. 地獄が見えても
3. 悲しい町で
4. あまり遠くへ行かないで
5. Love Will Tear Us Apart
=PLUS=
6. Love Will Tear Us Apart (千紗子と純太 Rework)
7. Untitled (Performed by 美れい @新宿ロフト 1980年4月22日)