イタリア北部の地方都市でひっそりと創作を続ける音楽家 Stefano Murgia によるソロ・プロジェクト Esse Pi Enne。
Murgia は地元トリノの小さなローカル・シーンで、長年にわたり自主レーベルの運営やカセット作品の制作、アンダーグラウンド・パーティーの主催など、多面的な活動を展開してきた。しかし、これまで正式なレコード作品として発表されたものはほとんどなく、英 All Night Flight からリリースされる本作が、プロジェクト初となるフル・レングスのアルバムとなる。
アルバムを満たすのは、調律の曖昧なエレキギターの寡黙な爪弾き、短波ラジオから突然入り込む不明瞭な音声、隣町からかすかに響く教会の鐘、人々が朝に目覚めはじめる頃の淡いざわめき。こうした断片的なフィールド録音や生活音が、まるで手作業で丁寧に縫い合わせられた古いコラージュのように連なり、聴き手自身の曖昧な記憶を静かに照らし返すような音の粒子が、慎ましい旋律とともに立ち上がっていく。
その音楽性には Slint 以降のスロウコアを思わせる静謐なフレーズが漂うが、ここで響いているのは、より親密で、夢と現実の狭間を朦朧とさまようような非常に個人的な世界だ。インディ・フォークの新しい枝葉が芽吹く瞬間を捉えたような、低体温で内向的ながらも深い余韻を残す作品。