魂の形式 コレット・マニー論(BOOK)

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魂の形式 コレット・マニー論
著者 中村隆之
装丁 宮一紀
四六判並製:256頁

没後約四半世紀、今なお熱狂的なファンを持つフランス音楽史上最も偉大な歌手コレット・マニーの評伝、入門書にして世界初の研究書。コレット・マニーとは誰か——歌詞、インタビュー、著述等のテクストを考察し、一人の人間がいかにしてほかならぬその人となったのかを明らかにする。社会的強者が作り出す基準から著しく逸脱するコレット・マニーの声は、「鉱山労働者、移民労働者、第三世界の民衆、黒人奴隷、女性、性的少数者、知的障害の子、家畜化された動物や無数の海鳥が形成する無名の共同体の声」となり、周縁的存在の集合が音楽的自由に直結する稀有な芸術形式、魂を揺さぶるマイナー音楽となる。

「ウーム・カルスーム? ビリー・ホリデイ? 美空ひばり? マリア・カラス?……そう、たしかに彼女らは偉大だったかもしれない。しかし、それはそれぞれの限られたジャンルの中での表現のレヴェルにおいて、たかだか歌い手として偉大だったにすぎない。だが、コレット・マニーは決定的に違う。それは、歌の表現云々以前の、音楽をする行為自体において、既に全く違う次元にあるのだ。」
——大里俊晴

▼目次

●序章 コレット・マニー研究とは何か
問題の所在  方法論  先行研究と資料  本書の構成

●第一章 フランスのブルーズ歌手 (1926–63年)
テレビのなかの「スター歌手」  歌手を目指すまで  デビュー――オーディション、ミレイユとの出会い  オランピア劇場  最初のEP盤《メロコトン》  ショービジネス界からの訣別の意味するもの

●第二章 政治的シャンソンはフリーを目指す (1963–67年)
政治的シャンソンの時代へ  最初の政治的EP盤《キューバ万歳》  《チュイルリー宮》に仕掛けられた爆弾  フランス最初期のフリージャズ・レコード《すべて終わり》  さらなる表現の前衛へ――ビュラビュラ、アルトー、ジャバウォッキー

●第三章 「六八年五月」からブラックパンサー党との共闘へ (1967–72年)
孤独と連帯  ベトナムとの連帯  マニーの〈六八年五月〉  《火とリズム》と黒人差別への怒り  ブラックパンサー党に捧げたアルバム《レプレッション》  ルポルタージュとしての歌――フランス北部の炭鉱労働者とスペイン・バスク地方の神父のために

●第四章 政治主義の彼方へ (1972–79年)
政治的であるよりも人間的であること  北アフリカの移民労働者に捧げたアルバム《ペニャ・コンガ》  チリ支援のためのヌエバ・カンシオン  政治主義との訣別とフリージャズを通じた再生  マニー作品の極点《顔゠村》  イスラエル/パレスチナ問題に捧げた音楽劇  障害を抱える子たちの声、この子たちの呟きを歌にすること

●第五章 自由であり続ける、最後の日まで (1979–92年)
妥協なき表現の探究  「わが兄」アルトーへの愛  スタンダード・ナンバーに託されたカミングアウト  《ケヴォーク》あるいは馴致不能のホロホロ鳥  いくつかの断片  アンコールとしてのラストアルバム《未発表曲集 九一年》

●終章 魂の形式

●あとがき

●ディスコグラフィー

●主要参考文献

●人名索引
著者:中村隆之(なかむら・たかゆき)
早稲田大学法学学術院准教授。東京外国語大学大学院博士後期課程修了。フランス語圏を中心とする環大西洋文学、広域アフリカ文化研究、批評と翻訳。著書に『野蛮の言説』(春陽堂書店)、『エドゥアール・グリッサン』(岩波書店)、『カリブ-世界論』(人文書院)、訳書に『ダヴィッド・ジョップ詩集』(夜光社)、エドゥアール・グリッサン『痕跡』(水声社)、解説にオレリア・ミシェル『黒人と白人の世界史』(明石書店)などがある。


コレット・マニー Colette Magny (1926-1997)
1926年フランスのパリ生まれの歌手。36歳でプロ・デビューし、フランス初の「真のブルーズ歌手」として注目を集める。1963年にCBSからリリースした〈メロコトン(Melocoton)〉がヒットし一躍スター歌手の座へ登りつめるが、すぐに商業主義と決別してル・シャン・デュ・モンドへ移籍。「シャンソン・アンガジェ(政治参加の歌)」の代表的歌手となる。その後ディエゴ・マッソンやアンドレ・アルミュロなどの現代音楽作曲家、フランソワ・テュスクやグループ・ダーマなどのフリージャズ・ミュージシャンとの共同作業によって、実験性と政治性を兼ねたアルバムを発表していく。歌、語り、叫び、呻きを混ぜ合わせた唯一無二のスタイルで、アントナン・アルトー、チェ・ゲバラからルイス・キャロルまで、ジャズ、ブルーズから子守唄までを自家薬籠中のものとした。1997年没。
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